東京高等裁判所 昭和38年(て)36号 決定 1963年11月05日
請求人 塩井清従
決 定
(請求人氏名略)
右の者から、東京高等裁判所が昭和三十八年七月三十日付をもつて裁判の解釈の疑義の申立棄却決定に対する異義の申立を棄却した決定につき、上訴権回復の請求があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上訴権回復の請求を許す。
理由
本件請求の趣旨は、請求人提出の「上訴権回復の申立書」と題する書面記載のとおりであるから、これを引用する。
東京高等裁判所昭和三八年(け)第三号、第四号および第八号各事件の関係記録によると、請求人は、東京高等裁判所において、請求人に対する右(け)第八号裁判の解釈の疑義の申立棄却決定に対する異議申立事件につき、同年七月三十日付をもつて右申立を棄却する旨の決定を受け、これに対する同月三十一日付特別抗告申立書を、請求人に対する右(け)第三号および第四号各事件につき同高等裁判所がなした決定に対する特別抗告申立書二通と一括して、一枚の封筒に封入し、これを同高等裁判所あてに配達証明付速達郵便に付して発送したこと、同年九月一日(日曜)の同高等裁判所当直員は、同日右郵便物を受領し、同日受付の日付印をその封筒の表面に押捺し、これを引き継いだ同高等裁判所第八刑事部事務官がこれを開披し、右封筒とそれに封入されていた特別抗告申立書三通とを一括して同裁判所刑事事件係に回付し、同事件係が同月三日右申立書三通にそれぞれ同日受付印を押捺し、その封筒を右(け)第三号事件の申立書に添付し、右(け)第四号および第八号各事件については、その申立書が九月一日当直員により受理されたことを表示する措置を講じなかつたため、それが決定謄本送達後五日の申立期間内の九月一日に受理されたにかかわらず、記録上はその期間経過後の同月三日受理されたもののごとき外観を呈するにいたつた結果、該特別抗告は、いずれも申立期間経過後の申立にかかるものとして、棄却の決定を受けたものであることが認められる。
刑事訴訟法第三百六十二条は、上訴権回復の請求の許される場合として、「自己又は代人の責に帰することができない事由によつて上訴の提起期間内に上訴をすることができなかつたとき」と規定している。右規定は、形式的に文理解釈をすれば、上訴の提起期間内に上訴状が提出されなかつた場合のみに関するもののように解される。しかし、本件の事例のごとく、裁判所職員の事務取扱上の不手際により、上訴の提起期間内になされた上訴がその期間経過後の申立にかかるもののような外観を呈するにいたつたため、棄却の決定を受けて本案の審理を受けることができなかつた場合は、事態を実質的に観察するかぎり、自己又は代人の責に帰することができない事由により上訴状が延着して上訴期間内に到達しなかつたため、棄却の裁判を受けた場合と、なんらえらぶところがないから、前の場合にも後の場合と同様上訴権回復が許されると解するのが右規定の精神に適合するものというべきである。
よつて、本件上訴権回復の請求は、これを許すべきものと認め、主文のとおり決定する。
(裁判官 坂間孝司 栗田正 有路不二男)